福岡地方裁判所 平成5年(ワ)3241号 判決 1996年10月18日
滋賀県守山市小島町一二七一番地
原告
西藤秀夫
右訴訟代理人弁護士
植山昇
右同
肱岡勇夫
福岡県筑後市大字上北島一二六四番地
被告
株式会社ワコー
右代表者代表取締役
相浦正廣
右訴訟代理人弁護士
稲澤勝彦
右同
藤井信孝
右輔佐人
藤井信行
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
(原告)
一 被告は、別紙物件目録記載の加湿器を製造し、販売してはならない。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
(被告)
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
(一) 特許番号 第一七四一三六六号
(二) 発明の名称 い草の加湿方法
(三) 出願日 昭和五九年一二月一三日
(四) 出願公告日 平成四年五月一三日
2 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「収納室にい草をその株元部が前になる様に積層して、前記収納室の前方に湿気室を設けて水分を多量含んだ材料を通気状態に充填せしめ、前記湿気室を通過せしめた多湿気流を前記積層したい草の株元部側から先端部側へと導くことを特徴とするい草の加湿方法。」
3 本件発明は、い草の加湿方法に関するもので、その構成要件を分説すれば、次のとおりである(以下、(一)の構成要件を「構成要件(一)」と表示し、他の各構成要件についても同様に表示する。)。
(一) い草をその株元部分が前になるように積層して収納するための収納室を設ける。
(二) 水分を多量に含んだ材料を通気可能な状態に充填した湿気室を前方に設ける。
(三) この湿気室を通過させた多湿気流を収納室の前から後へ、換言すればい草の株元部から先端部へと導き通過させる。
4 被告は、別紙物件目録(以下「物件目録」という。)記載のとおりの装置(以下「被告装置」という。)を業として製造、販売している。
5 被告装置は、本件発明の実施にのみ使用される物である。本件発明と被告装置の技術との対比は、次のとおりである(以下、被告装置の摘示箇所の特定は、物件目録記載の番号、記号により行い、本件発明の摘示箇所の特定は、本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)により行う。)。
(一) 構成要件(一)との対比
被告装置は、い草aを収容室1に前後方向に積層するものであり、また、い草の株元部から先端まで均一な加湿をい草に与えるためには、水分要求量の多い株元部を前方網4側にして収納するのが通常であるから、この点で、被告装置の技術は、構成要件(一)の「い草をその株元部が前になる様に積層して」に該当し、構成要件(一)を充足する。
(二) 構成要件(二)との対比
(1) 被告装置は、湿気室である循環通路9'内のbに、直径〇・五ミリメートル以下の繊維の集合体で構成されている疎水性の合成樹脂フィラメントを〇・〇五立方メートル積層し、その上方に多数小孔14のある注水皿10、その下方に水槽3を設置し、ポンプ11及びホース12により、循環水を右の合成樹脂フィラメントに供給して、その繊維の表面に平均して継続的に水分を付着させている。合成樹脂フィラメントは、疎水性であるが、積層すればその間隙に保水でき、自体積の二分の一の水分を保持できる。
他方、構成要件(二)における「水分を多量に含んだ材料」とは、吸水材料に限定されるものではなく、「稲ワラ、枯草類、繊維屑、吸水性樹脂の粒状体、発泡樹脂の屑状物、ボロ布」(本件公報4欄15行ないし17行)等細片状の含水材料を通気可能な状態に積層して、この積層体の材料表面に水分を多量に含ませることを意味する。そして、本件発明の「水分を多量に含んだ材料」を吸水材料のように水分を組織内部に取り込むものに限定することはできない。したがって、被告装置の合成樹脂フィラメントは、構成要件(二)の「水分を多量に含んだ材料」を充足する。
仮に、本件発明と同一でなくても、被告は、ことさら材料自体疎水性である合成樹脂フィラメントを使用し、水分の補給を必要とする劣った方法を採用しているのであるから、被告装置は本件発明の迂回発明である。
(2) 構成要件(二)の「充填せしめ」とは、い草の積層高さに合わせて「水分を多量に含んだ材料」の充填高さを調整する構造には限定されないものである。そして、被告装置は、前記合成樹脂フィラメントを湿気室内に積層しているのであるから、構成要件(二)の「充填せしめ」の要件を充足する。
(3) 被告装置の湿気室は、い草収容室1と壁によって仕切られた二五センチメートル幅の循環通路9'内に設けられている一連の装置及び前方網4までの空間で構成されており、これらは、収容室1とは前方網4で区切られ、収容室へ送り込まれる気流の上流にある。
他方、構成要件(二)の「前方」との記載は、湿気室が収納室の物理的に前にある場合だけではなく、収納室へ気流を送るための流れの前方つまり上流側に湿気室がある場合を含むものである。したがって、被告装置の湿気室の設置方法は、構成要件(二)の「前方」を充足する。
(三) 構成要件(三)との対比
被告装置は、霧や水滴をかなり含んでいるとはいえ、主成分として水蒸気を多く含んでいる気流を生成させ、収容室1に積層したい草の根元部から先端部に通風するものである。
他方、構成要件(三)は、霧や水滴が含まれていても水蒸気を多く含んでいる多湿気流を収納室に積層したい草の根元部から先端部に導くというものであるから、被告装置は、構成要件(三)を充足する。
仮に、被告主張のように本件発明の「多湿気流」が完全な水蒸気を指すものであるとしても、被告装置はあえて過剰な水分補給を行って水滴を含む気流を発生させており、迂回発明である。
(四) 以上のとおり、被告装置は、本件発明のすべての構成要件を充足し、又は迂回発明であつて本件発明と均等であるから、本件発明の技術的範囲に属し、被告装置の使用は、本件発明を実施するものである。
6 よって、原告は、被告に対し、本件特許権に基づき、被告装置の製造及び販売の差止めを求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因1、2及び4の各事実は認める。
2 請求原因3の事実のうち、本件発明がい草の加湿方法の特許であることは認め、その余は否認する。本件発明の構成要件は、次のとおりである。
(一) 収納室にい草をその株元部が前になるように積層する。
(二) 収納室の前方に湿気室を設けて、水分を多量に含んだ材料を通気状態に充填させる。
(三) 湿気室を通過させた多湿気流を積層したい草の株元部から先端部へ導く。
3 請求原因5の事実のうち、本件明細書中の特許請求の範囲に請求原因2のような記載があること、被告装置がい草の加湿のみに用いられるものであること及び請求原因5(一)の事実は認めるが、その余は争う。
被告装置の使用は、次の点で、本件発明の実施には当たらない。
(一) 構成要件(二)について
(1) 本件発明の「水分を多量に含んだ材料」とは、本件公報の特許の詳細な説明の項で例示されているとおり、い草の加湿の途中で保水材料に水分を補給する必要がない吸水性、保水性のあるものである。
これに対し、被告装置で使用している合成樹脂フィラメントは、撥水性のものであって吸水性・保水性のないものであるから、常時水を補給しなければ湿気を含んだ気流を作ることができない。
また、被告装置で採用した合成樹脂フィラメントは、通気性がよく、保守管理が容易であり、水と風の接触面積が大きく取れ、水滴の発生を防止するとの利点があるので、被告装置は、本件発明よりすすんでいるといえ、迂回発明ではない。
(2) 本件発明において「前方」とは、その記載自体及び本件公報の記載から見て、物理的に湿気室が収納室の前に置かれていることを示すのであり、収納室の上流側とは解釈できない。これに対し、被告装置では湿気室は、収容室の横にある循環通路9'に設けられている。
(3) 本件発明の「充填せしめ」とは、い草の積層高さに応じて保水材料の高さを調節できることである。これに対し、被告装置は、い草の積層高さに応じて湿気室に充填される材料の充填高さを調整するようになっていない。
(二) 構成要件(三)について
本件発明の「多湿気流」とは、完全な水蒸気であり、霧や水滴を含まないものである。これに対し、被告装置では、湿気室に相当するものを通過した気流には霧や水滴が含まれている。
第三 当裁判所の判断
一 請求原因1(原告が本件特許権の特許権者であること)、同2(本件発明の特許請求の範囲の記載)、同4(被告が被告装置を業として製造、販売していること及び被告装置が物件目録記載のとおりであること)及び同5のうち被告装置がい草の加湿のみに用いられるものであることの各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 被告装置の使用と本件発明の実施
1 本件特許請求の範囲の分説
特許請求の範囲は、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明について、その発明の構成に欠くことができない事項のみを請求項に区分して記載するものであり(特許法三六条五項)、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に基づいて定めるべきものである(同法七〇条一項)から、特許発明の技術的範囲の確定は、可能な限り特許請求の範囲の記載に忠実になされるべきである。してみると本件特許の構成要件は次のようになる.(以下<1>の構成要件を「構成要件<1>」と表示し、他の各要件についても同様に表示する。)。
<1> 収納室にい草をその株元部が前になるように積層して、
<2> 前記収納室の前方に湿気室を設けて水分を多量に含んだ材料を通気状態に充填せしめ、
<3>前記湿気室を通過せしめた多湿気流を前記積層したい草の株元部側から先端部側へと導くことを特徴とする
<4> い草の加湿方法
2 構成要件<2>について
(一) 本件発明中の「水分を多量に含んだ材料」が、い草の加湿途中において右材料に水分を補給する必要がない程、吸水性、保水性のあるものをさすものであるか否かについて判断する。
本件明細書中の特許請求の範囲に、「収納室にい草をその株元部が前になる様に積層して、前記収納室の前方に湿気室を設けて水分を多量含んだ材料を通気状態に充填せしめ、前記湿気室を通過せしめた多湿気流を前記積層したい草の株元部側から先端部側へと導くことを特徴とするい草の加湿方法。」と記載されていることについては当事者間に争いのないところ、「水分を多量に含んだ材料」の「多量」とは、極めて抽象的な用語であり、一義的に理解することができないが、右特許請求の範囲には、この材料に含ませる水分量についての記載はない。そして、甲第二号証によれば、本件明細書中の発明の詳細な説明の項において、「問題点を解決するための手段」(ここに記載されている事項は実質的に実施例に関する事項と認められる。)の箇所で「収納室1の前方に湿気室3を設けて、ここに水分を多量含んだ材料つまり保水材料bを前記のい草aの積層高さに合せて充填させるのである」(本件公報3欄31行ないし33行)、「本発明において、保水材料bとしては例えば稲ワラ、枯草類、繊維屑、吸水性樹脂の粒状体、発泡樹脂の屑状物、ボロ布等があげられ、特に吸水してもあまり形状の変化しない稲ワラ或いはい草などをカットしたものが好適に使用できるものである。」(本件公報4欄15行ないし20行)、「したがって例えば収納室1に一〇〇キログラムのい草aを収納すれば正味の必要水分量は僅か六キログラムであり、例えば水分を二五ないし三五キログラム含有した保水材料Bを合計約四〇ないし六〇キログラムほど湿気室3に充填すれば、約三、四時間で、途中で水分を何ら追加しなくても、十分に目的とする加湿が達成できるのである。」(本件公報4欄24行ないし29行)との説明が、「実施例」(ここに記載されている事項は、実質的に実験結果の説明と認められる。)の箇所で、「この一〇〇キログラムのい草aを加湿するに必要な水分量は一〇キログラム以下で十分であるため、この実験においては保水材料bの保水量が三一キログラムと非常に多いので、このファン8の駆動中には一度も水の追加供給は行なわなかった。」(本件公報6欄3行ないし7行)との説明がされていることが認められる。
これらの記載は、水分を多量に含んだ「材料」として、稲ワラ、枯れ草類、繊維屑、吸水性樹脂の粒状体、発泡樹脂の屑状物、ボロ布等を例としてあげており、ここで発泡樹脂とは、合成樹脂(プラスチック)の中に気泡を一様に分散させたスポンジ状のものを意味すると考えられるから、いずれのものも、それ自体が吸水性があるか否かは別として、水分を含んだ状態つまり保水した状態とすることが可能なもの(保水材料)であると認められる。そして、前記のとおり発明の詳細な説明における「多量」についての具体的な記載として、水分を二五ないし三五キログラム含有した保水材料を用いれば、一〇〇キログラムのい草の加湿に必要な水分量は六キログラムであることから、約三、四時間の加湿作業中、途中で水分を何ら追加しなくても十分に目的とする加湿が達成できる、との具体例が挙げられていることからすると、本件明細書において、「多量」とは、加湿作業中に一度も水分を補給する必要がない程度に水分を含んでいることを意味する用語として用いられていると認めるのが相当である。
したがって、構成要件<2>において記載された「水分を多量に含んだ材料」とは、加湿作業中に一度も水分を補給する必要がない程度に水分を含ませることが可能な材料に水分を含ませたものを指すと認められる。
(二) 次に、物件目録及び甲第一、第二号証によると、被告装置に使用されている合成樹脂フィラメントの水面上の体積は、〇・〇五立方メートルであり、これには、約一・五キログラムの水分を保有することができること、被告装置で一度に加湿できるい草の量は約七〇キログラムであること、被告装置においては、合成樹脂フィラメントの上方に注水皿10を、下方に水槽3を設け、右水槽3内の水中ポンプ11からホース12を介して循環水が注水皿10に供給され、これら一連の装置により合成樹脂フィラメントに水分を補給するようになっていること、約一〇〇キログラムのい草を加湿する場合に必要な水分量は六キログラムであることが認められる。そうすると、被告装置を用いて約七〇キログラムのい草を加湿する場合に必要な水分量は、四・二キログラム(六×七〇/一〇〇=四・二)となり、合成樹脂フィラメントが含有した一・五キログラムの水分では、加湿作業中に水中ポンプ11等の一連の装置を使用して水分を補給しなければい草を十分に加湿できない。したがって、被告装置の合成樹脂フィラメントは、加湿作業中に一度も水分を補給する必要がない程度に水分を含ませることが可能な材料であるとは認められないから、被告装置による加湿方法は本件発明の構成要件<2>の「水分を多量に含んだ材料を充填せしめ」を充足しないというべきである。
右判断に対し、原告は、被告装置の合成樹脂フィラメントは自体積の二分の一の水分を保持できると主張するが、右のとおり被告装置で採用されている合成樹脂フィラメントが保有することができる水分の量は、加湿作業中に水分を補給しなければならない程度の少ない量であるから、右主張は失当である。
また、原告は、被告装置による方法は、ことさら材料自体疎水性である合成樹脂フィラメントを使用し水分の補給を必要とさせており、本件発明の迂回発明である旨主張しているが、前記認定のとおり、被告装置は、本件発明の本質的特徴である、い草の加湿途中に水分の補給を必要としない程度に多量の水分を含ませることが可能な材料という構成を欠くのであるから、被告装置の保水材料自体が疎水性であるか吸水性であるかは、右判断を左右するものではない。
(三) 以上の事実からすれば、被告装置は、本件発明の構成要件<2>を充足せず、本件発明とはその技術的思想を異にすることが明らかであるので、被告装置は、本件発明の技術的範囲に属するものとはいえない。
したがって、被告装置は、本件発明の実施に使用するものとはいえないから、これを業として製造、販売することが本件特許権の間接侵害を構成しないことは明らかである。
三 よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 野﨑彌純 裁判官 渡邉弘 裁判官 松葉佐隆之)
物件目録
ワコー式加湿機
ただし、別紙第一、二、三、四図のもの。
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
図面説明書
(1) 前後方向に長い長方形の藺草収容室1には前後方向に長さ約180cmの藺草束aが積層収容することができるようになっている。
(2) 上記収容室1の前端には通風網4を境に空室3aが設けられ、後端には通風網5を境に排気室7が設けられている。
(3) 後端の排気室7には吸引用シロッコファン8の吸引口を接続し、このシロッコファン8の排出口には送風ダクト9を接続してある。
(4) 上記空室3aは底面3b、前面6、上面3d及び右側面3cが鉄板で囲繞され、該空室3aの左側面と上記送風ダクト9の左端とが循環通路9’の前後端と連通し、この循環通路9’は上記収容室1の左側面に沿って設けられている。
(5) 上記循環通路9’は前端面9’a、底面9’b、外側面9’cが鉄板で密閉され、上面は開閉自在の蓋板15で閉鎖されるようになっている。
(6) この循環通路9’の中程上面には注水皿10が支持され、底面9’bには上記通路幅と同一幅の高さ15cmの水槽3が後部から前端まで設けられ、前端には水滴衝突流下板13が設けられている。
(7) 注水皿10の前半は無孔板であり後半に多数の小孔14が設けられ、前端に水槽内の水中ポンプ11からホース12によって循環水が供給されるようになっている。
(8) 注水皿10の下面と水槽3の底面9’bとの間には厚さ約5cm(0.05m)、幅約25cm(0.25m)、長さ約50cm(0.5m)、体積0.07m3の通風マットを11段に積重ねて循環通路9’に充填しフィルター又は集積マットbを形成し、下段3枚は水槽3内に収容されるようになっている。
(9) 上記マットbは水を全く吸収しない塩化ビニリデン製の上下前後左右方向に弯曲した長さ数cm太さ約0.5mm以下の弾力性のある多数のフイラメントを不規則に集積し、相互接触部を加熱溶着してなるもので全体積に対するフイラメント部の実体積は約6%程度であり、約94%は広い空間部であり、この空間はマット全域に連通している。
(10) 注水皿10の長さ及び幅は上記マットbの長さ及び幅と符合し、注水皿10はその符合した位置に設けられ、前端に給水された循環水は注水皿10の前半から落下することなく後半に穿設した多数の小孔14から細い糸のように或はフイラメントに当って分散しながら上記広い空間内を流下するようになっている。但しフイラメントの表面附着水は流下水を停止すると水面上の充填材全体積0.05m3中1.5kgである。1m3中の含水量に換算すると約30kgである。
(11) そのため循環水は上記集積マットbの後半の上記空間を流下し、循環通路9’の後方から送られる送風によって前半の広い空間にさらに移行し、さらに分散して気化又は霧となり、霧(小水滴)は水滴衝突流下板13に当って水槽3内に流下循環し、気化した水蒸気の大部分が藺草収容室1の前端の空室3aに人り、さらに通気網4から藺草収容室1内に入り、収容されている藺草aを加湿して後端の通気網5から排気室7に入り、さらにシロッコファン8によって吸引されて排出口から送風ダクト9に入り、さらに上記循環通路9’の後端部に送風される動作が繰り返されるようになっている。
(12) 上記マットbは全体の96%を占める多数の広い連通空間によりなるため、水中ポンプ11を停止し循環水の注水皿10への給水を止めると直ちにマットb内のフイラメントに附着した水分約1.5kgは後方からの送風によって気化消滅し、気化水分の生成は直ちに停止する。
(13) 第1図は被告装置の斜視図
第2図は被告装置の平面図
第3図は循環通路の側面図
第4図は第3図A-A矢視図
以上
<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告
<12>特許公報(B2) 平4-27922
<51>Int.Cl.3B 27 K 9/00 識別記号 H 庁内整理番号 9123-2B <24><14>公告 平成4年(1992)5月13日
発明の数 1
<54>発明の名称 い草の加湿方法
<21>特願 昭59-263875 <55>公開 昭61-141505
<22>出願 昭59(1984)12月13日 <43>昭61(1986)6月28日
<72>発明者 西藤秀夫 滋賀県守山市小島町1271番地
<71>出願人 西藤秀夫 滋賀県守山市小島町1271番地
<74>代理人 弁理士 古田高司
審査官 徳廣正道
<57>特許請求の範囲
1 収納室にい草をその株元部が前になる様に積層して、前記収納室の前方に湿気室を設けて水分を多量含んだ材料を通気状態に充填せしめ、前記湿気室を通過せしめた多湿気流を前記積層したい草の株元部側から先端部側へと導くことを特徴とするい草の加湿方法.
発明の詳細な説明
イ 発明の目的
産業上の利用分野
本発明は置表の材料として使用されるい草の加湿方法に関するものである.
従来の技術
い草を織機にかけて置表を織る場合、必ずこのい草に適当量の水分を含ませて、つまり加湿して柔軟性を保持させることが要求されるのである.
従来のい草の加湿方法は、手作業による散水手段などが行われていたが非能率的でしかも不均一であり、水分量の多少によつて織上がつた置表の色沢などに差異が生じるなど問題の多いものであつた.
ところで近年、この従来の手作業による加湿を機械化するべく、種々なる手段が開発されて来ている.
例えば本出願人が昭和56年8月に特許出願(特願昭56-122131号)した発明があり、この発明は機械装置を利用した最初のい草加湿装置であり、水蒸気を循環させて加湿できる画期的なものであつた.また特開昭58-175611号公報にやはり水蒸気循環式のい草加湿装置が開示されている。
しかしながら、これら従来装置はいずれも超音波加湿器等の水蒸気(霧)発生装置を利用しており、次項に述べる様な諸欠点を有しているのである.
発明が解決しようとする問題点
水蒸気(霧)を発生させる加湿器を使用すると、まずこの構造が複雑であるため霧を発生させる部分に故障が生じやすく修理が素人では非常に困難であるという欠点があり、特にこのい草はその処理中に多量の塵埃を発生するのでこの故障が起りやすく最大の問題点となつているのである.
またこの加湿器の発生する水蒸気は真の水.ではなく大部分が水の微粒子からなる霧であり、したがつてい草の収納室の気流の接触部に水滴として付着しやすいこと、及びい草の最初に気流が接触する部分に水滴として滞留しやすいなど、手作業による散水式に比べると均一性にすぐれているとはいうものの、い草全体に充分に平均して加湿できるとはいい難く、一層の改善が要望されるのである.
さらに加湿器から能率よく霧を発生させるには一定量以上の気流が必要であり、この大量の気流と霧とを均一に混合することが要求されるのであるが、従来の加湿装置ではこの両者を混合させる空間挟ま過ぎて均一に混合することが難しく、したがつて、い草の加湿にも均一性に問題が生じるという欠点も有していたのである.
また、この加湿器は高価で通常1台が10万円以上もし、しかも前述した様に故障が多く霧発生の耐久性が約2000時間位と非常に短かく維持経費が高いなどコスト的にかなり不利なものとなつているのである.
本発明者は、以上の様な欠点の多い加湿器を使用せずに、い草の加湿を達成できる方法を得ることを目的として種々検討を重ねた結果、本発明に到達したのである.
ロ 発明の構成及び作用
本発明の構成は、収納室にい草をその株元部が前になる様に積層して、前記収納室の前方に湿気室を設けて水分を多量含んだ材料を通気状態に充填せしめ、前記湿気室を通過せしめた多湿気流を前記積層したい草の株元部側から先端部側へと導くことを特徴とするい草の加湿方法、を要旨とするものである.
問題点を解決するための手段
水分を充分保持した材料の中を通過させた多湿気流を使用すれば、加湿器なしでい草の加湿が達成できることを見い出したのである。
第1図は本発明を実施するための装置の1例の側面断面略図である.
第2図は、第1図の装置の平面断面略図である.
第3図は第2図のA-A'断面略図である。
これらの図の様に本発明方法は、収納室1にい草aを積層し、その上にカパーシート2を密着させて上から空気が入らない様にするのである.そして収納室1の前方に湿気室3を設けて、ここに水分を多量含んだ材料つまり保水材料bを前記のい草aの積層高さに合せて充填させるのである.
なお、い草aはその株元部が前になる様に、つまり湿気室3側に来る様にして積層し、湿気室3の保水材料bはこの中を空気が充分通過しやすい様につまり通気状態に充填することが必要となる.
この収納室1の前後の仕切壁4、5及び湿気室3の前方壁6は共に有孔状のものであり、例えば多数の透孔を有する有孔ボード、金網、ブラスチツク製網などより構成されているものである.
また後部仕切壁5の外側には空洞部7を介してフアン8が備えられており、このフアン8を駆動させて図の矢印の様に気流を生じさせるのである.
すなわち、空気はフアン8により収納室1から吸引されるので、湿気室3の外側の空気は前方壁6の多数の穴から吸い込まれ保水材料bの間隙を通過して、ここで充分な水蒸気を含んだ多湿気流となつて収納室1の有孔状の前部仕切壁4から収納室1に入り、い草aに加湿を与えながら通過して同じく有孔状の後部仕切壁5から空洞部7へと導かれるのである.
この場合、保水材料bの上にもカバー体9を つておくと、空気が上部から入るのを防止でき、好ましい結果が得られるものである。またこの 流は押出し式であつてもよい。
本発明において、保水材料bとしては例えば稲ワラ、枯草類、繊維屑、吸水性樹脂の粒状体、発泡樹脂の屑状物、ボロ布等があげられ、特に吸水してもあまり形状の変化しない稲ワラ或はい草などをカツトしたものが好適に使用できるものである.
通常、い草aは加湿前にも約10%程度の水分を含有し、加湿後の水分量が平均16%位になるとその柔軟性が最も好ましい状態となるのである.
したがつて例えば収納室1に100kgのい草aを収納すれば正味の必要水分量は僅か6kgであり、例えば水分を25~35kg含有した保水材料Bを合計約40~60kgほど湿気室3に充填すれば、約3~4時間で、途中で水分を何ら追加しなくても、充分に目的とする加湿が達成できるのである.
なお、本発明において使用されるフアン8は の風量が30~70m3/分のものが好適なものである.
また、い草aはその株元部に近いほど硬いので、株元部に近い方に加湿度合が高くなる様にしてやると、株元部から先端部まで均一な柔軟性となり非常に織上げ容易ない草aとなるのである.
したがつて、従来でもい草aの株元部から加湿していたのであるが、この株元部と先端部との水分差か大きくなり過ぎる傾向にあり一つの問題点となつていたのである.
通常、株元部の水分率か20~22%、中間部の水分率が16~18%、先端部の水分率が14~15%位となることが最も理想的な水分分布であり、本発明方法によればこの理想状態に近い加湿が達成されるのである.それは本発明方法では気流中に含まれる水分は完全な水蒸気であり霧ではなく水滴として株元部で凝結することが少ないので、い草aの先端部まで充分に水分が運ばれるためであり、従来装置に比べて株元部に必要以上多く含水することがないからである.
また本発明においては、加湿処理すべきい草aの量が少なくてもその積層高さに応じてカパーシート2を密着させることと、そのい草aの積層高さに合せて保水材料bの充填高さを調節できることとにより、い草aが多い場合と同一条件で加湿処理が達成できるのである.
この事は、置表の織上げ途中で、い草aの追加加湿が必要となつても、色沢などに変化が生じることがないという効果を発揮するのである.
なお、この少量加湿の場合は、後部仕切壁5の上部にカバーをしてい草aのない部分から空気が通過しない様にしてやることが必要であることは勿論である.
実施例
第1図~第3図に示した様な加湿装置を使用して以下の様な実験を行なつた.
まず巾95cm、高さ80cm、奥行き150cmの収納室1に100kgのい草aを積層しカパーシート2を つて密着させた.このい草aの積層高さは70cmとなつた.
なおこのい草aの株元部を前にして積層したことは勿論である.
次に、巾95cm、高さ80cm、奥行き30cmの湿気室3に、乾燥した稲ワラを29cmの長さにカツトして70cmの高さになる様に充填したところ20kgの重量が必要であつた.
この20kgの稲ワラを取り出して水中に浸して充分保水させて保水材料bとし、その重量を測定したところ51kgとなつていた.
この保水材料bの51kgを前記の湿気室3に充填させた.つまり稲ワラ20kgと水31kgとからなる保水材料bを通気状態に充填し、その上にカバー体9を つたのである.
ついでフアン8として翼の直径が305mmで回転数が1330/分でその風置が46m3/分のものを使用して、このフアン8を4時間に渡つて連続駆動させた.
なお、収納室1の前後の仕切壁4、5及び前方壁6としては、通気抵抗が少ない様に金網を張つた枠により作成した.
この100kgのい草aを加湿するに必要な水分量は10kg以下で充分であるため、この実験においては保水材料bの保水量が31kgと非常に多いので、このフアン8の駆動中には一度も水の追加供給は行なわなかつた.
この4時間の処理中に30分毎にサンプルを取り出して、い草aの水分増加量を測定したところ次表の様な結果が得られた。
なお、水分増加量は原料100kgに対する量に換算して示したものである.
測定時間 水分増加量
30分 1020g
60分 990g
90分 980g
120分 980g
150分 930g
180分 820g
210分 540g
240分 400g
この表において水分増加量は各々その30分で増加した量が示されており、原料からの増加量は各測定時間までの合計量となる.
なお、念の為30分毎に稲ワラの水分減少量を測定したところ、上記い草の水分増加量とほぼ一致するものであつた.
上記の表の水分量を吸水率で示してグラフ化したのが第4図である.
上記の表及び第4図のグラフより、最初の3時間は30分毎にほぼ1%づつの水分増加が見られるが、3時間を過ぎると水分増加割合が低下して来ることが分るのである.
この3時間過ぎての水分増加率の低下は、い草aの革が水分の吸収と共に軟化してしなやかになるため間隙が密になつて気流通過の抵抗が大きくなるためと考えられる.
次に前記30分毎のい草aの水分測定時に、同時にその株元部A、中間部B、先端部Cについての水分率を測定した結果、第5図の様なグラフが得られた.
なお、この水分率の測定はケツト置表迅速水分計を使用して行なつた.
この第5図のグラフより元来10%の水分率のものが、本実施例の処理により株元部Aは約21%、中間部Bは約16.5%、先端部Cは約14%の水分率となつており、前述した理想的な部位別含水状態であつて株元部Aから先端部Cまでの柔軟性がほぼ同一になるというきわめてすぐれた結果が得られたのである.
また、この実施例により上記4時間の処理で加湿目的は充分に達成されており加湿器なしでも簡単にい草aの理想的な柔軟化が達成されることが判明したのである.
ハ 発明の効果
以上詳細に説明した様に本発明は、い草の加湿方法として加湿器を使用することなく、保水材料中を通過させた多湿気流によつてい草を加湿するものであり、その処理装置の構造がきわめて簡単で取扱いが容易であり、加湿器がないので従来の様に故障によるトラブルは全くなく、しかも処理コストが大幅に軽減され、かつ維持質がきわめて安価であり、需要者にい草を安く供給できるという効果を有するものである.さらに本発明方法によつて処理されたい草は、気流の中に平均して水蒸気を含ませることができるため、い草に含まれる水分にバラツキがなく、しかも前記した様に株元部から先端部までほぼ均一な柔軟性が得られる様になるので、置表が非常に織上げやすく製品の品質も向上し、仕上つた置表の乾燥時間も水分バラツキが少ないため大幅に短縮される、などのすぐれた効果も発揮するのである.
図面の簡単な説明
第1図は本発明を実施するための装置の1例の側面断面略図である.第2図は、第1図の装置の平面断面略図である。第3図は第2図のA-A'断面略図である.
1…収納室、2…カパーシート、3…湿気室、4…前部仕切壁、5…後部仕切壁、6…前方壁、7…空洞部、8…フアン、9…カバー体、a…い草、b…保水材料.
第4図は本発明の実施例におけるい草の水分吸収曲線グラフである.第5図は本発明の実施例におけるい草の部位別水分率増加曲線グラフである.
第1図
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第2図
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第3図
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第4図
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第5図
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特許公報
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